東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)275号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。
1 成立に争いのない甲第二号証の一・三、第四号証に本件口頭弁論の全趣旨を総合すれば、次の各事実を認めることができる。即ち、本願意匠は意匠に係る物品を「構築用ブロツク」引用意匠は意匠に係る物品を「護岸用ブロツク」とするものであつて、両意匠の意匠に係る物品は同種のものであること、両意匠の各形態は別紙(一)、(二)にそれぞれ記載のとおりであつて、いずれも全体の基本形状を「つづみ」型として、前面盤及び後面盤を同寸法の扁平直方体状とし、その間に中央がくびれた角柱状の連結部を設けた態様に一体状に形成したものであり、両意匠は右基本的構成態様において共通していること、構成各部の具体的な態様において、両意匠とも前面盤を後面盤より厚くして、前面盤の表面側周縁を切り面状に形成し、前面盤表面の中央部に横長長方形の凹陥部を形成し、後面盤の表面を平坦状にしているものであつて、これらの点については両意匠は共通しているが、本願意匠において、前面盤の厚さは後面盤の厚さの二倍弱であり、前面盤の表面側周縁を切り面状に形成した部分を除くその余の部分(合羽の部分)の厚さと等しいのに対し、引用意匠において、前面盤の厚さは後面盤の厚さの約三倍であり、前面盤の表面側周縁を切り面状に形成した部分を除くその余の部分(合羽の部分)の厚さは後面盤の厚さの二倍強であること、前面盤表面の中央部に形成されている横長長方形の凹陥部(本願意匠につき別紙(三)の「本願の意匠」の底面図、引用意匠につき同「引用の意匠」の正面図を参照)の縦横の比率は本願意匠と引用意匠とで差異があり、右凹陥部の周縁の幅について、本願意匠においては、上下の幅Tと左右の幅Uとがほぼ等しいのに対し、引用意匠においては、左右の幅uが上下の幅tの約二倍となつていること、前面盤と後面盤の間に設けられた連結部について、本願意匠においては、中央に形成されたくびれ部分をほぼ正四角柱の各角部を面取りした八角柱状のものとし、各角部の稜線が前面盤及び後面盤の各裏面の四隅に収れんするように、右八角柱の各面が右くびれ部分からわずかな凹弧面をもつて斜面を形成して前面盤及び後面盤の各裏面の周縁に達していること(前記面取りした部分は先細りの斜面を形成して前面盤及び後面盤の四隅に達している。)、そのため、右斜面が相対して反対方向に傾斜した面を形成し、開放状となつていること、これに対し、引用意匠の連結部は、中央に形成されたくびれ部分を長四角柱状のものとし、右長四角柱の各面が右くびれ部分から、本願意匠における前記凹弧面よりもやや大きな凹弧面をもつて折曲面を形成して、前面盤及び後面盤の各裏面まで、これら各裏面の周辺に余地(平面部分)を残して達しており、そのために相対する前面盤及び後面盤の各裏面のうち右平面部分は平行状に形成されていること、引用意匠の前面盤及び後面盤の各裏面のうち平面部分となつているのは、左右幅においては約四五パーセント、上下幅においては約二三パーセントである(別紙(三)の「引用の意匠」のB―B線断面図参照)こと、本願意匠の前面盤の左右幅Mと連結部の中央に形成されたくびれ部分の左右幅Nとの比は約一〇対三・七であるのに対し、引用意匠の前面盤の左右幅mと連結部の中央に形成されたくびれ部分の左右幅nとの比は約一〇対二・二であり(本願意匠につき別紙(三)の「本願の意匠」の正面図、引用意匠につき同「引用の意匠」の平面図参照)、本願意匠の前面盤の高さPと前記くびれ部分の上下幅Qとの比は約一〇対五・二であるのに対し、引用意匠の前面盤の高さpと前記くびれ部分の上下幅qとの比は約一〇対二・五である(本願意匠につき別紙(三)の「本願の意匠」の底面図、B―B線断面図及び左側面図、引用意匠につき同「引用の意匠」の正面図、B―B線断面図及び左側面図参照)こと、本願意匠の前面盤、後面盤の各面積と前記くびれ部分の断面積との比はいずれも約一〇対一・九であるのに対し、引用意匠の前面盤、後面盤の各面積と前記くびれ部分の断面積との比はいずれも約一〇対〇・六であること。以上の事実が認められる。
2 本願意匠と引用意匠に共通する前記認定の基本的構成態様は、構築用ブロツクあるいは護岸用ブロツクの意匠として全体的なまとまりを形成すべきものであることは明らかである。
3 しかして、前記認定のとおり、本願意匠においては、連結部の中央に形成されたくびれ部分をほぼ正四角柱の各角部を面取りした八角柱状のものとし、右八角柱の各面が右くびれ部分からわずかな凹弧面をもつて斜面を形成して前面盤及び後面盤の各裏面の周縁に達しており(右面取りした部分は先細りの斜面を形成して前面盤及び後面盤の四隅に達している。)、そのために右斜面が相対して反対方向に傾斜した面を形成し、開放状となつているのに対し、引用意匠においては、連結部の中央に形成されたくびれ部分は長四角柱状のものとし、その各面は右くびれ部分から、本願意匠における前記凹弧面よりもやや大きな凹弧面をもつて折曲面を形成して、前面盤及び後面盤の各裏面まで、これら各裏面の周辺に余地(平面部分)を残して形成されており、そのために、相対する前面盤と後面盤の各裏面のうち右平面部分は平行状になつている。
そして、本願意匠においては、前面盤の厚さが後面盤の厚さの二倍弱であるところ、右のとおり、連結部の八角柱の各面の斜面が前面盤及び後面盤の各裏面の周縁にまで達しているため、右斜面と前面盤及び後面盤が一体化して相当の厚みを形成していて、前面盤と後面盤の厚みの差は小さく感じられ、前面盤と後面盤とのほぼ中間付近に重心があつて、前後においてほぼ均衡しているとの印象を与える。さらに、右斜面と前面盤及び後面盤が一体化して形成された厚みに加えて、前面盤、後面盤の各面積に対する前記くびれ部分の太さが引用意匠のそれとの比較において太いところの、八角柱で形成されているため、引用意匠と対比すると、本願意匠においては前面盤及び後面盤と連結部との一体感が強く、かつ調和のとれた安定感を感じさせるものである。
一方、引用意匠においては、前面盤の厚さが後面盤の厚さの約三倍であるところ、連結部の長四角柱の各面が前面盤及び後面盤の各裏面の周縁にまで達しておらず、各裏面に前記認定の割合の平面部分が存するため、前後が不均衡であつて、重心がかなり前面盤寄りにあるとの印象を与えるのみならず、連結部の折曲面と前面盤及び後面盤が一体化して厚みを形成するというようなことがないことに加えて、前面盤、後面盤の各面積に対する前記くびれ部分の太さが本願意匠のそれとの比較において細いところの、長四角柱で形成されているため、本願意匠と対比すると、前面盤及び後面盤と連結部との一体感が弱く、かつ全体として華奢な感じを与えるものである。
右に説示した本願意匠と引用意匠との各相違点は、意匠上顕著な差異を生ぜしめるものというべく、本願意匠は引用意匠と基本的構成態様において共通しているものの、両意匠を全体的に観察するときは、右相違点は、右共通点を陵駕して、看者に異なる美感を起こさせるものと認めるのが相当であつて、本願意匠は引用意匠と類似していないものというべきである。
被告は、本願意匠において、くびれ部分から立ち上がつた斜面が相対して反対方向に傾斜した面を形成し、開放状になつているのに対し、引用意匠において、相対する前面盤と後面盤の各裏面のうちの一部が平面で、平行状になつていることは極めて部分的な差異にすぎず、両意匠における、前面盤と後面盤の厚みの差異、前面盤の左右幅及び高さとくびれ部分の左右幅及び上下幅との比率の差異、連結部の角柱の面取りの有無等はいずれも微弱な差異であつて、これらの差異を総合しても、両意匠の共通点であり、主要部である基本的構成態様を陵駕するほど顕著なものではない旨主張する。
しかしながら、被告の主張にかかる内側壁面が開放状であるか、平行状であるかは、極めて部分的な差異であるとは認め難いし、右以外の相違点は個別的には顕著な差異ではないとしても、右具体的な構成要素が組合せられることによつて、本願意匠は引用意匠とは別異の美感を生ぜしめるものであること、前記説示のとおりであつて、被告の右主張は採用できない。
以上のとおりであつて、本願意匠と引用意匠とは全体として互いに類似するとした審決には、両意匠の類否の認定判断に誤りがあり、その誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は、違法として取消しを免れない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容する。
〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五三年七月三一日、意匠に係る物品を「構築用ブロツク」とする別紙(一)に記載のとおりの意匠(以下「本願意匠」という。)につき、意匠登録出願(昭和五三年意匠登録願第三二四八三号)をしたところ、昭和五六年一一月二四日拒絶査定を受けたので、昭和五七年三月一七日審判を請求し、昭和五七年審判第五三四〇号事件として審理されたが、昭和五九年一〇月二日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月二四日原告に送達された。
二 審決の理由の要点
本願意匠は、意匠に係る物品を「構築用ブロツク」とし、形態を別紙(一)に示すとおりにしたものである。
当審で拒絶の理由とした引用の意匠(以下「引用意匠」という。)は、昭和五三年三月一四日特許庁発行の意匠公報所載の意匠登録第四六七九七三号の類似第三号意匠であつて、その願書及び願書に添附の図面の記載から、意匠に係る物品を「護岸用ブロツク」とし、形態を別紙(二)に示すとおりにしたものである。
両意匠を対比するに、両意匠は、意匠に係る物品が同種のものであり、形態においても、全体の基本形状を「つづみ」型として、前面盤及び後面盤を同寸法の扁平直方体状とし、その間に中央がくびれた角柱状の連結部を設けた態様に一体状に形成した基本的構成態様が共通していると認められ、さらに、構成各部の具体的な態様においても、前面盤は後面盤よりやや厚くし、その表面側の周縁を切り面状に形成し、表面の中央部に横長長方形の凹陥部を形成し、後面盤の表面を平坦状にしている点が共通していると認められる。
一方、構成各部の具体的な態様において、連結部は、本願意匠がくびれ部分を正四角柱の各隅を面取り状とし、その各面が前面盤及び後面盤の各裏面の四隅に合致するように、くびれ部分からわずかな凹弧面をもつて斜面を形成しているのに対し、引用意匠は、くびれ部分を長四角柱状とし、その各面が前面盤及び後面盤の各裏面に周縁に余地を残して、くびれ部分から凹弧面を形成している点、その他、前面盤表面の中央部に形成した凹陥部の縦横比に差異が認められる。
形態における以上の共通点及び差異点を総合し、意匠に係る物品を考慮して両意匠を全体として比較考察した場合、本願意匠の主要部は、全体の基本的構成態様にあると認められるものであり、前記の差異点のうち、くびれ部分の差異は、角柱の各隅を単に面取りしたことによつて生じたものであつて、角柱によつて構成されたくびれ部分の基本的構成態様を変更したと認められる程著しいものではなく、また、前面盤及び後面盤の各裏面における斜面と凹弧面との差異並びに前面盤表面の中央部の凹陥面における縦横比の差異は、この種の意匠の分野において普遍化していた態様のものに改変したことによつて生じたわずかな差異にすぎないものであり、意匠に係る物品が同種のものであり、意匠の主要部において前記したとおり共通点が認められる両意匠は、全体として互に類似する意匠である。
なお、請求人(原告)は、意見書において、本願意匠は機能上重要な意味をもつ外形形状である旨を述べるが、実用上の効果はとも角、意匠的には前記のとおり別異の意匠を構成したと認められる程著しいものとは認められないのでその主張は採用し難い。
したがつて、本願意匠は、意匠法第三条第一項第三号に規定する意匠に該当し、登録をすることができない。
三 審決を取り消すべき事由
審決は、本願意匠と引用意匠との共通点である審決認定の基本的構成態様を意匠の主要部であるとして、本願意匠の要部の認定を誤り、さらに、両意匠における後記2項掲記の相違点を看過誤認して類否の判断を誤り、右相違点が両意匠の共通点を陵駕して看者に異なる美感を起こさせるから非類似とすべきであるにもかかわらず、互いに類似しているものと認定判断したものであつて、違法である。
1 本願意匠及び引用意匠の意匠に係る物品は、使用時及び取引時に上方から観察されることが最も多く、その際、前面盤、後面盤の形状及び連結部の形状の相違は看者に一目瞭然に識別されるところであるから、本願意匠の要部、即ち看者の注意を惹く点は、右の各形状にあるものというべきである。
審決は、本願意匠と引用意匠との共通点である、全体の基本形状を「つづみ」型として、前面盤及び後面盤を同寸法の扁平直方体状とし、その間に中央がくびれた角柱状の連結部を設けた基本的構成態様に主要部があると認定しているが、右共通点は、この種の自立式の構築用ブロツクにおいて、そのほとんどのものが備える物品固有の形態を概念的に抽出したものにすぎず、両意匠間にのみみられる特徴ではない。
この種の構築用ブロツクは、前面盤と後面盤とを前後に向け、後方にやや傾斜させながら積み上げて壁を構築するのに使用するものであり、前面盤及び後面盤を同寸法の扁平直方体状とし、前面盤と後面盤の間に連結部を設けて全体の形状をつづみ型とするのが、コンクリートを流し込む空間を作るのに最良の設計である一方、連結部を中央がくびれた角柱状とすることは、連結部両端に働く曲げモーメントにより、連結部が折損するのを防ぐために必須のものである。
したがつて、この種の構築用ブロツクは右共通点を備えているものであつて、これを両意匠の主要部であるとする審決の認定は誤りである。
2 審決は、両意匠の類否の判断において、次の相違点を看過誤認している。
(一) 本願意匠の連結部は、先端(正面図において左右方向)に向かうにしたがつて次第に広がるので、底の平らなV字形であるとの印象を与える。これに対し、引用意匠の連結部は、前面盤と後面盤の裏面が平行であるので、U字形であるとの印象を与える。
(二) 本願意匠においては、前面盤の合羽(ブロツクを積んだ時互いに接する部分)の厚さと、後面盤の合羽の厚さとが等しく、前面盤及び後面盤の裏面が周縁から中心方向に向けて次第に内方に膨出しているので、前面盤と後面盤の厚さの差は小さく感じられ、前面盤と後面盤はほぼ同じ大きさで重心は真中にあるとの印象を看者に与える。
これに対し、引用意匠においては、前面盤の合羽の厚さが後面盤の合羽の厚さの約二倍もあり、しかも、前面盤も後面盤も裏面周縁部が表面と平行な平面であり、更に、前面盤の表面の切り面状に形成した部分の厚さも加わるので、前面盤の厚さは後面盤の厚さの約三倍程度に感じられ、重心が前面盤寄りにあつて前後がアンバランスな印象を与える。
しかも、本願意匠においては、前面盤及び後面盤の裏面が周縁から中心に向かつて次第に内方に膨出しているので、どつしりとした安定感を与える。
これに対し、引用意匠は、前面盤及び後面盤の裏面の周縁部が表面と平行で、前面盤及び後面盤は板状であるので、スマートで華奢な感じを看者に与えるものである。
(三) 本願意匠の前面盤の左右幅M(符号については別紙(三)参照。以下同じ。)と連結部のくびれ部分の左右幅Nとの比は約一〇対三・七であるのに対し、引用意匠の前面盤の左右幅mとくびれ部分の左右幅nとの比は約一〇対二・一であり、本願意匠の前面盤の高さPとくびれ部分の上下幅Qとの比は約一〇対五・二であるのに対し、引用意匠の前面盤の高さpとくびれ部分の上下幅qとの比は約一〇対二・五であつて、両意匠間には、前面盤の左右幅及び高さに対する連結部のくびれ部分の左右幅及び上下幅の割合に格段の差異がある。
しかも、本願意匠においては、くびれ部分の左右幅Nに対する上下幅Qはほぼ同じであるのに対し、引用意匠においては、くびれ部分の左右幅nと上下幅qとの比は一〇対六・五である。
したがつて、本願意匠は、前面盤と後面盤とが太い連結部で連絡され、どつしりとした安定感を与えるのに対し、引用意匠は、細いスリムな印象を与えるもので、両意匠間の美感の相違は顕著である。
(四) 本願意匠のくびれ部分は、正四角柱の四隅を大きく面取りしているものである。面取りした部分の幅Sは、上下左右の面の幅Rの約一〇分の七であり、上下左右の面と面取りした面との幅はほとんど差異を感じさせないもので、くびれ部分はほぼ正八角柱であるとの印象を与えるものである。これに対し、引用意匠のくびれ部分は長四角柱状である。
また、本願意匠は、ほぼ正八角柱をなす連結部の各稜線が前面盤及び後面盤の各隅ごとに集まるようにしているもので、連結部は前面盤、後面盤と一体をなしているとの印象を与えるのに対し、引用意匠は、長四角柱をなす連結部の各稜線が前面盤及び後面盤の各裏面上でとどまつており、連結部を板状の前面盤及び後面盤の裏面に接着したとの印象を与えるもので一体感に乏しいものである。
(五) 本願意匠は、前面盤の表面の凹陥部を、凹陥部の周縁の幅が上下の幅Tと左右の幅Uとが等しくなるようにしているのに対し、引用意匠は、凹陥部を、凹陥部の周縁の上下の幅tに対する左右の幅uが約二倍となるようにしているもので、両者は別異の印象を与えるものである。
第三 被告の答弁及び主張
一 請求の原因一及び二の事実は認める。
二 同三は争う。審決の認定判断は正当であつて、審決には原告主張のような違法はない。
1 審決は本願意匠の要部の認定を誤つている旨の主張について
(一) 連結部くびれ部分の面取りについて
本願意匠と同種の意匠が属する意匠の分野において、本願出願前より連結部の角部を面取り状に形成して現したものは多く見受けられることであり、角柱状とした連結部の角部を面取り状とした点は、本願意匠にのみ現された特徴とは認め難いから、その部分を本願意匠の要部とすることはできない。
(二) 連結部の凹弧面について
くびれ部分と直交する前面盤及び後面盤を連結する凹弧面の差異について、本願意匠がわずかな凹弧面としてそこから斜面を形成しているのに対し、引用意匠はやや大きな凹弧面としてそこから平坦面を形成しているが、その差異は、両意匠とも凹弧面状に形成した点で共通する範囲内における曲率の差異でしかなく、それは微弱なものというほかない。
(三) 前面盤、後面盤の各裏面について
本願意匠と同種の意匠が属する意匠の分野において、本願意匠の出願前より前面盤及び後面盤の各裏面を斜面状に形成して現すことは普通に知られていることであつて、この点は本願意匠のみについて現されたものではないから、この部分が本願意匠の特徴を現したところの要部であるとはいえない。
したがつて、右に述べた各差異点は、いずれも本願意匠の出願前より普通に知られている形態であるか、または、部分的で微弱な差異でしかなく、審決が、両意匠の類否の判断に当たり重視すべき要部と認めなかつたことに誤りはない。
また、審決が認定した基本的構成態様が、たとえ物品固有の形態であるとしても、意匠は物品の全体の外観形態であつて、対比する両意匠について意匠上顕著な差異点が認められない以上、全体としてみて前記の基本的構成態様が注目されるべきものであつて、審決が、両意匠の類否の判断において基本的構成態様を意匠の主要部と認定したことは正当である。
2 審決は両意匠の相違点を看過誤認している旨の主張について
(一) 請求の原因三項2、(一)について
両意匠は、連結部のくびれ部分を平滑面(以下「底の面」という。)として形成している点、前面盤と後面盤の外端を結ぶ直線から底の面までの長さに比較して、前面盤と後面盤の外端を結ぶ直線の長さを大きく形成した点、前面盤と後面盤の各裏面は底の面から凹弧面をもつて立ち上がつた平滑面(以下「内側壁面」という。)を形成している点において共通しているものである。一方、内側壁面について、本願意匠の内側壁面は相対して反対方向に傾斜した開放状の面として形成しているのに対し、引用意匠では相対する面を平行状に形成している点に差異が認められるが、底の面から凹弧面をもつて大きい開口状の内側壁面を形成した両意匠の共通点(左側面視では、前面盤と後面盤の外端を結ぶ直線の長さを底の面までの長さ(深さ)よりも大きく形成して現したことにより、底の面までの深さは浅く見え、内側壁面よりも底の面が強調されている。)に対し、原告の主張する内側壁面が開放状か平行状かの差異は、極めて部分的な差異にすぎない。
(二) 同(二)について
両意匠とも、前面盤を後面盤より厚く形成し、前面盤の表面側周縁を切り面状に形成したものであつて、その残余の厚さ(原告が「合羽の厚さ」と述べている部分)は、前面盤の厚さからみれば一部分の厚さにすぎず、前面盤と後面盤の厚さの対比に当たつて、前面盤の一部分の(合羽の)厚さを基準として後面盤の厚さと対比することは不適切な対比であつて、原告の主張を首肯することはできない。
(三) 同(三)について
両意匠とも、前面盤の左右幅及び高さよりも、くびれ部分の左右幅及び上下幅を極端に小さく形成した点で共通するものであつて、数値上の差異は、中央がくびれている、いわゆる「つづみ」型に形成した共通点に比して微弱であり、差異点として採り上げるまでもない。
(四) 同(四)について
連結部のくびれ部分の面取りについては前記1、(一)で述べたとおりであつて、両意匠の類否の判断に与える影響は軽微であり、角柱によつて構成されたくびれ部分の基本的構成態様を変更するほどの顕著な差異と認めることはできない。
次に、本願意匠の前面盤と後面盤の各裏面は、わずかな凹弧面を経て扁平四角錐台形状に形成しており、その法面をなだらかな斜面として形成し、各角部を面取りして先細りの斜面を形成し、各角部の稜線が各裏面の四隅に収れんするように形成している。これに対し、引用意匠の前面盤及び後面盤の各裏面の凹弧面によつて囲まれた部分は、扁平四角錐台形状に形成しており、その法面をゆるやかな凹弧面として形成し、その各凹弧面と各裏面は大きな角度を形成する折曲面状に現されているものであり、各角部の稜線は各裏面の周縁に若干の余地を残して各裏面と合致するように形成したものである。
ところで、本願意匠における連結部の正四角柱の各角部は面取りをしているのに対し、引用意匠における連結部の各角部は面取りをしていないが、各稜線はいずれも前記の扁平四角錐台形状の底の面側の四隅に合致するものである。そして、各裏面において、本願意匠は斜面としているのに対し、引用意匠は折曲面であるが、その折曲面は直角を超えた広角度により形成されているものであつて、斜面に近似した面を呈しているものである。
(五) 同(五)について
本願意匠の出願前よりこの種の意匠の属する分野において、前面盤の表面中央部に縦横を各種の比率とした四角形状の凹陥面を形成して現すこと(その結果、周縁に一定幅の周縁面が現されること)は多くみられることである。
したがつて、本願意匠において凹陥面の周縁に上下左右の幅が等しい周縁面を現した点を本願意匠の特徴というにはあまりにも一般化した形態であるというほかない。
以上のとおりであつて、両意匠とも、意匠に係る物品が同種のものであり、その形態における各差異点を総合しても、その差異点は主要部(基本的構成態様)の共通点を陵駕するものではなく、本願意匠は引用意匠に類似するとした審決の認定判断に誤りはない。
〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
別紙 (一)
本願の意匠
意匠に係る物品構築用(コウチクヨウ)ブロツク
背面図は正面図と同一にあらわれる。
説明 右側面図は左側面図と同一にあらわれる。
<省略>
別紙 (二)
引用の意匠
意匠に係る物品 護岸用ブロツク
説明 右側面図は左側面図と、底面図は平面図と対称にあらわれる。
<省略>
引用の意匠
意匠に係る物品 護岸用ブロツク
説明 右側面図は左側面図と、底面図は平面図と対称にあらわれる。
<省略>
別紙 (三)
本願の意匠
意匠に係る物品構築用(コウチクヨウ)ブロツク
背面図は正面図と同一にあらわれる。
説明 右側面図は左側面図と同一にあらわれる。
<省略>